不世出の歌姫、逝く
久々に実家で寛いでいたその時、パソコンの画面から飛び込んできた訃報に目を疑いました。
「本田美奈子. 急死」
彼女がアイドルとしてデビューした当時、その歌唱力の確かさに驚かされたのは私だけではないはずです。
「殺意のバカンス」-凡そその小動物のように愛くるしいルックスからは想像もできないパワフルな歌声と、大胆な振り。
こりゃ只者じゃない、と唸らされたのがもう20年も前のことだなんて。
追悼の映像の中に、彼女が所謂オーディション番組に出場し、決戦大会で合格できなかった時のものがあったのですが、確かにあれでは合格しなかっただろうな。
あの手の番組が求めているのはあくまでも原石。なのに彼女は出場の時点で既にアイドルとして完成されていました。
ヘアメイクや衣装も全て松田聖子の亜流、とでも言うのでしょうか。個性が感じられない…なんて所詮素人の感想ですが、あながち外れてもいないでしょう。
だって、現実に会場にいた数多くのプロダクションのスカウトマンからひとつもプラカードは上がらなかったのですから。
その後スカウトされて芸能界に彗星のごとく現れた時には、その完成度が更に高まっていたことに驚かされました。
順風満帆、歌唱力のある実力派アイドル、としていずれは岩崎宏美のようなヴォーカリストに転じていくのだろう、などと勝手に思っていただけにその後の低迷期が意外でしたし、菊池桃子といい、どうして売れなくなると女子はロックヴォーカリストを目指すのでしょうか(?)
だからこそ、「ミス・サイゴン」のオーディションに合格した、と芸能ニュースで知った時には収まるべきところに収まった、そんな印象を受け、それからの成功も不思議には思いませんでした。
私はミュージカルに造詣は深くありません。有名どころ、それこそ「レ・ミゼラブル」や「キャッツ」などを見たくらいでその世界で誰がどう活躍しているかなど全く知るところではありません。
でも、劇団四季の会員にまでなっている友人によれば彼女はかなりの有望株で、あれだけのソプラノヴォイスのミュージカル女優はそうはいない、とのこと。
その友人も、どうしても彼女をアイドル出身という色眼鏡で見てしまっていたそうですが、「ミス・サイゴン」を何回か見てその実力に心を惹かれたとか。
クラシック歌手がポップスを歌うことは珍しくも何ともありませんが、一度はロックシンガーとしてそれなりの発声をしていた人があれだけの正統なソプラノの歌声を手に入れるためにはどれほどの苦労があったことでしょうか。
闘病生活中、無菌室の中でまでストレッチをしていて周囲を驚かせた、という記事をどこかで読みましたがその熱意がちっともわざとらしくなく、直向で、いじらしくて、だからこんなに皆が追悼の意を表にするんでしょうね。
海千山千の芸能記者やコメンテーターも損得抜きで掛け値なしに悲しんで、彼女を惜しんでいたのを目の当たりにして、先日の彼女もそうですが、惜しまれる人ほど早く逝ってしまうなあ。そうしみじみ思いました。
やっぱり神は、残酷だ。
不世出の、「シンガー」であり「ヴォーカリスト」でした。
心からご冥福をお祈りします。どうぞ安らかに。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント