猫と死神と雨空と
雨が降っている。
あの猫はどうしているだろうか。
懐く気配のない猫だった。
冬になると姿を消し、どうしているかな、と思っていたら暖かくなるとひょこっと現れる。それも丸々と太った状態で。そんな状態が3年ほど続いていた。
どこでどうやって冬を越しているのだろう。どこかに別宅があるのかもしれないが、それでも春夏秋、と我が家で当たり前のように毎日食事をしていったヤツ。謎めいている。
一度、耳がちぎれるような怪我をしていたことがあったので覚悟を決めて捕獲器を仕掛け、そのまま麻酔をかけてもらって去勢、怪我の縫合もしたのだが、継続しての家猫修行はとてもじゃないけれどさせられそうになかった。
本猫は食事もしなけりゃ排尿排便もなし、威嚇し通しで見ていても気の毒だったから。
生粋の野良。しかも臆病で警戒心が強い。
これまで保護した子達はほぼ捨て猫か、あるいは外飼いの子たちの迷い込みだったので、苦労はしたけれど人なれさせらられたが、ここまで野良気質が強いと正直自信が持てなかったから結局放してしまったのだ。
流石にしばらくは来ないだろう・・・と思っていたが、比較的あっさりとヤツはやってきてこれまでのように、当たり前のようにご飯を食べていった。
これまでにも生粋の野良、と思しき外猫はいたが、彼は落ち着きがあり、警戒心は強いが「苦しゅうない触ってよいぞ」とでも言いたげな風情で、実際私が撫でても嫌そうな顔こそすれ、逃げたりはしなかった。
ちなみに、彼は日に日に痩せていったのでこれはまずい、と覚悟を決めて捕獲を試みようとした矢先に逝ってしまった。
今にして思えばかなりの老齢だったのかもしれない。
ヤツはきっと戸惑っているだろう。
昨日までは出てきたご飯が、今日はない。
人っ子一人いない、広い敷地でもしかしたら私たちを探したりしていないだろうか。
引っ越したの、そんな事情なんかヤツにはわかるはずもない。
無理にでも捕獲して家猫化を図ればよかったのか。でもそんな余裕は今はない。せめて、来年ならどうにかできたのに・・・彼が冬を越している場所に行ってくれていればいいのだが。
ごめんね。限界があるの。ご飯あげられなくなってごめんね。
明日、嫌なこともあるけれど楽しみにしていたら・・・突如死神が来るという。
これまでもそうだった。彼女が来ると全てダメになってしまうのだ。今だって彼女の勤め先は大変な状況下にあるというのに、どの面下げて乗り込んでくるというのか。
突如割り込んでくるようなこの無神経さはあの一家の特徴とも言っていいだろう。
死神の威力をも払拭するだけの強さがある、と家人はのたまっているがどうだか。
また彼女の悪魔のような力を見せ付けられてとぼとぼと帰ってくることになるのではないか。ああ。本当に何故世の中にはああいう負のパワーの持ち主がいるのだろう。
彼女自身は台風の目だから揺らぎない妙な自信をお持ちだが、周りは悪影響を受けて吹き飛ばされてしまう。
もうこれで「ない」な。お終いだ。いろいろな意味でお終い。もうどうでもよくなっちゃった。
天気と共に沈んだ気持ちのまま明日を迎えることになりそうだ。
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